日本では、外国人が日本で働くために必要な在留資格「特定技能」が2019年4月から導入されています。特定技能とは、人材の雇用が難しい特定の14の産業分野において、外国人労働者で不足を補うことを目的にした在留資格です。具体的には、介護や自動車整備、外食業などが特定産業分野として挙げられます。

特定技能を取得するために必要なこと

特定技能を取得するためには、自分が働きたい分野の経験や知識を持っているということをアピールする必要があります。それには特定技能評価試験に合格することが必要となります。しかし、特定技能評価試験に合格するだけでは、特定技能を取得することが出来ません。就業後も、日本人の同僚と円滑なコミュニ―ケーションを図る必要があるため、特定技能評価試験のほかに、ある程度日本語能力を有しているということを証明する必要があります。
では、特定技能を取得するための「ある程度の日本語能力」とは、いったいどのくらいのレベルなのでしょうか?

日本語能力試験のN4が合格レベル

厚生労働省によると、「ある程度日常会話ができ,生活に支障がない程度を基本とし,業務上必要な日本語能力」とされています。
(参考:https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000485526.pdf)
具体的には、「日本語能力試験」で、N4の段階に合格出来ると、業務を遂行する上で支障がない程度の日本語能力があると見なされ、特定技能取得のための要件である日本語能力の項目を満たすこととなります。

日本語能力試験とは

日本語能力試験とは、国際交流基金と日本国際教育支援協会が主催している日本語能力を測るための試験です。日本語能力試験にはN1、N2、N3、N4、N5の5つのレベルがあり、一番易しいレベルがN5とされています。N5からN1になるにつれて難しくなっていくので、特定技能取得の要件であるN4は、下から2段階のレベルになります。
日本語能力試験で試される能力は、「読む」と「聞く」ですが、N4の場合、「読む」だと、基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することが出来る、「聞く」だと、日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解出来るレベルと位置付けられています。N4の合格の目安としては、300時間ほど勉強をすれば、達成できると考えられています。

ニーズが高まる日本語教育

上述したように、外国人が日本で働くには、技術や知識を持っていることに加えて、ある程度日本語でコミュニケーションを取ることに苦手意識がないことが条件となります。近年の日本で働きたいと思う外国人の高まりにより、2019年に日本語教育推進法といった法律が可決されたり、日本語教育推進会議が定期的に開かれるなど、国としても日本語教育の充実を図ることを目的とした取り組みが行われています。

例えば、都道府県の政令都市が地域の機関と連携し、日本語教室の運営や、日本語教育人材の養成・育成など、日本語教育環境を強化するための費用が補助され、合計約5億円もの費用が費やされています。(参考:http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/pdf_355/04_sp.pdf)
また、外国人を雇っている企業に対しては日本語教育研修の実施を推奨したり、日本語教育プログラムをサービスとして提供している企業さえもあります。
このような、日本語教育を受ける機会や体制が整えられつつあるのは、国内だけではありません。海外でも、142の国・地域において日本語教育が実施されており、日本語教育を受けられる機会が増えてきています。特に、アジアの国々で日本語学習する人口の伸びが著しく、そのアジア諸国の中でもベトナムは日本語教育を重視する傾向があり、日本語教育が盛んです。
(参考:http://www.nkg.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/10/sekai-vietnam1011.pdf)

ベトナムでの日本語教育事情

実際、2017年の日本語能力試験のベトナム人の受験者数は71,242人と、東南アジアで最も多く、2011年の14,317人と比較すると、約5倍近くになっています。また、ハノイをはじめとする8つの地域の約70校の中学校・高校にて日本語教育が実施されているほか、初等教育では、英語と同様に日本語を第一外国語として位置づけられています。
このように、ベトナムでは、義務教育の中で日本語教育がカリキュラムとして組み込まれていますが、実はベトナムにおける日本語の学習場所の半数以上は、中学校・高校・大学以外の、年齢問わず多くの人が利用可能な私立の外国語センターです。この外国語センターでは、日本人教師と接する機会が多く、社会人でも参加しやすい時間割のため、ベトナム人が日本語を学ぶ場所として、非常に重要な役割を担っています。
(参考:http://www.nkg.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/10/sekai-vietnam1011.pdf)
また、私たちが日本にいながら外国人とオンライン上で英会話のレッスンを受講するように、ベトナム人を対象とした、オンライン上での日本語レッスンのサービスもあるなど、ベトナム人の日本語へのニーズの高まりは明らかです。

受け入れる側の日本人が注意するべきこと

日本で働きたい外国人が、日本語能力試験のN4に達し、特定技能を取得出来たとしても、業務において私達日本人と全く問題なく円滑にコミュニケーションが取れるとも限りません。それは言語の問題だけではなく、文化や慣習の違いもあるからです。そのため、外国人労働者を受けいれる立場の私達日本人は、少しでも外国人労働者が馴染みやすい職場環境を整えてあげることが必要となります。

「やさしい日本語」の概念を取り入れる

外国人が馴染みやすい職場環境を築くためには、「やさしい日本語」の概念を取り入れると良いでしょう。やさしい日本語とは、難しい言葉を避け、文の構造を簡単にした日本語のことを指します。例えば、「叫ぶ」をやさしい日本語で表現すると「大きい声で言う」となり、外国人でも理解しやすい文となります。
やさしい日本語は、外国人と日本語でコミュニケーションを取る際には非常に有効であるといえ、また、日本語に不慣れな相手を思いやる、気遣うという意味でもぜひ取り入れるべきでしょう。

相手をおもてなす感覚が大切

外国人労働者は、日本の人手不足を解消するために来日してくれています。いわば助っ人ともいえるでしょう。そのため、「助けにきてくれてありがとう」という気持ちを込めて、おもてなしをすることが大切です。具体的には、就業規則や業務マニュアルなどの重要な文書を翻訳することや、図式化したイラスト版の作成など、日本語だけでコミュニケーションを取ろうとしないことや、慣れない日本における日常生活をサポートしてあげることが挙げられます。このおもてなしにより、外国人労働者との間に信頼関係が生まれ、良い職場環境を築くきっかけにもなります。

相手の国の文化や慣習を尊重する

日本人の価値観や、慣習ばかりを外国人労働者に押し付けるのではなく、相手を尊重する姿勢も非常に重要です。相手の国の文化や風習などの理解を深め、お互いが尊重しあうことで、働きやすい環境の構築が可能となるのです。

【まとめ】日本語はコミュニケーションツールの1つ

日本で働きたいと思う外国人労働者の増加により、日本語教育がアジアの国々を中心にして普及しています。外国人が日本で働くうえで、私達日本人と日本語でコミュニケーションを取らなければいけないからです。今後も、日本の少子高齢化に歯止めがかからない限り、労働人口は減り、外国人労働者に頼らざるをいけません。職場の半数が外国人という可能性もあります。そのような遠くない未来に向けて、私達日本人は、日本語でコミュニケーションを取ることにこだわらず、相手の国の言語が少しでも話せるならその言語を話したり、ボディランゲージや、筆談でもいいので、様々な方法で意思疎通を図ることが大切です。そうすることで、外国人にとっても、私達日本人にとっても働きやすい環境になるでしょう。